前回までの話
マッチングアプリTinder(ティンダー)で、反町隆史似の186cmイケメン自衛隊員と会うことになったが、家にやってきたのはしゃくれた男性で… (絶望の瞬間はこちら→1話)
私のソファに、見知らぬしゃくれが座っている。
そこには反町隆史が座るはずだったのに。
予想外の出来事に動揺していた私は、
あ、もしかしたら疲れすぎて幻覚を見てるんじゃないかしら?
と思いまぶたを閉じ3秒数えてから、ゆっくりと目を開けた。
うん、変わるわけないよね。
やっぱり大しゃくれ。
横顔とかもう顎ラージヒルできるくらい長くたくましい。
謎のしゃくれ君がトイレに行ってる間に、こっそりスマホで写真を確認。
しゃくれ君の写真は4枚。
- 笑顔の写真
- 少し横向き
- 水着姿の首から下の写真。顔は写っていない。
- 集合写真。
顔は見えるけど画質が悪く「目がおっきいね」くらいしかわからん
整理すると、①と②は反町隆史似の別人、③と④がしゃくれ君だと思われる。
なるほど、だから④は画質が悪かったのか。
まんまとしてやられた。
しゃくれ君はトイレから戻るとソファに座り、私が用意していたお菓子を食べ始めた。
「今すぐ帰って」
とは言えなかった。
言えないよー。言いたいこと、全然言えないよー。ポイズーン。
そんなメンタル強くないものー。
お前誰だよー。
それに、無理やり襲ってくるような人ではなさそうだけどやっぱり怖いし。
しゃくれ君も私の気持ちを察してか、気まずい空気が流れる。
何か会話を…顔に触れずに何か…
そうだ、仕事を、聞こう
京都観光のキャッチコピーかな?ってくらいの閃き。
そういえばこの人は自衛隊員。自衛隊員と会うなんて人生で初めてで、お仕事には興味津々である。
一番聞きたい「いや、だからお前誰やねん」を一旦端に置いて、訓練の話や寮生活について聞いた。
ちょうど昨日まで「重い荷物を背負って3日間歩き続ける訓練」をしていたらしい。
へぇー!!!
実働訓練といい、敵との戦場を想定し数日間かけて進行と攻撃を行うらしい。
戦車も動かし、指定の場所でいかに速やかに大砲を撃てる状態にするかの訓練も兼ねているらしい。
へぇー!!!!!
それ以外にも、災害・防災訓練や特殊部隊による攻撃への対処訓練、さらに個人では射撃訓練や日々の筋力トレーニングも欠かせないらしい。
自衛隊の皆さんは、普段こんなに訓練をしてはるのか。
有事の際に最前線で働いてくださっている姿はメディアを通じて何度も見てきたが、その裏で日々こんなに過酷なトレーニングを積み重ねていることを知り、より感謝の気持ちが大きくなった。
なんとなくわかったつもりでいることも、実際に見たり聞いたりすると想像をはるかに超えているものだ。
「一番しんどい訓練」を聞いてみた。
だって、日々の筋トレはもちろん、数日間ろくに休まず歩き続けたり、何十キロもある荷物を背負って走ったり…どれもしんどそうな訓練ばかり。
一体、どんな訓練が一番大変なんだろう。
彼は即答した。
「穴掘り」
あ な ほ り !?
いや、ほんと想像をはるかに超えてくる。
なんとこの穴掘り、戦車が埋まるほどの穴掘りらしい。
でっか。
それもう一軒家の基礎工事ですやんか。
最初はどうなるかと思ったが、どんな状況でも楽しもうと思ったらなんとかなるもので、話は盛り上がり、気づけば1時間が経っていた。
しゃくれ君が言った。
「キスしていい?」
え?
文脈をぶった切って、どえらい直球。
でも、別にいいかな、と思ってしまった。
もちろん顔は全くタイプじゃないけど、
なんだろ…面白い話聞かせてくれてありがとう代とでもいうんだろうか。
私が返事をする前に、しゃくれ君はキスして来た。
がっつきが凄い。
キスもそこそこに、胸を鷲掴みにされる。
…痛い。
痛すぎる。
え?私のおっぱい、ポンプかなんかだと思ってる?
ってくらいガッシガシに揉まれている。
そのまま事は始まった。
が、すぐにわかってしまった。
キスの時に嫌な予感がしたが、このしゃくれ君、セッ◯スがド下手だ。
セッ◯スが下手な人について、私は元カノにも責任があると思っている。
「ダメなものはダメって言わないと、この子、育たないよ?」理論である。
グッグッっと胸をポンプのように押してんのに、きっと「痛い」と言わず、耐えちゃってたんだろうなぁ。
元カノ達がちゃんと指摘してこなかったから、しゃくれ君はこれが良いんだ!と今日もポンプを押しているのだ。それか元カノがほんまにポンプだったか、どっちか。
セッ◯ススキルはビデオを見たところで習得できるものではない。
結局ビデオは座学。
スキルは実戦でしか伸ばすことができないのだ。
天才でない限り、実戦で相手の反応を見て正しい受け・攻めを学んでいくことでしか、上達できない。
試合の経験値がものをいうこの種目で、相手が手加減をしていたらそら伸びひんがな。
結果的に、
しゃくれ君はポンプマシーンに育ってしまった。
なんて悲しいモンスター。
シザーハンズも大号泣の悲しきモンスターである。
憂いでいると、しゃくれ君は私を持ち上げた。
ソファからベットまで、お姫様抱っこで運んでくれるらしい。
え?えー!?うそー!!
すごーい!漫画みたい!こんなの初めてー!
ん?
あれ?
片足が…床に着いてるねんけど?
あー、あれだね。重すぎて抱えきれなかったんだね。
毎日重い荷物背負って訓練してる人が抱えれないぼどの女、って事ね。やるじゃん私。
しゃくれ君は片足を抱え、落ちないよう首にしがみつく私。
何これ?
降ろしてくれりゃぁいいのに、そのままベッドまで直進するしゃくれ君。どうやら彼の辞書に撤退という文字はないっぽい。
仕方ないので私はソファからベッドまで、まぁまぁの距離をケンケン。
キスをしながらケンケン。
その姿たるや…。
卍 ←こんな体勢なわけよ。
マジで卍。まさしくマジ卍。
あの瞬間、西日本で一番虚しい格好をしてたと思うの。
悲しいモンスターは私の方でした。いや、モンスターと言うより妖怪寄りのおぞましい何か。
で、どうにかポンプマシーンと卍妖怪、2人の悲しいモンスターズはインクした訳ですよ、ベッドに。
でね、いざ本番!となるんだけど、
ポンプマシーン、4擦りでお果てになっちゃったの。
早すぎる。
気まずい。
「もう、シャワー浴びて帰りー」
私はやっと言いたいことが言えた。
ポイズンからの解放である。
バツが悪そうなしゃくれ君を見送り、部屋でひとり、今日を振り返ってみた。
なんだったんだ今日は。
そして、冷静になるとやっぱりどうしても気になることがある。
あいつ誰やってん。あの反町隆史写真はなんやねん。
ちょうどしゃくれ君から
「また会おうな♪」
とLINEが届いた。
会うわけないやろ。
でもちょうどいい。ポイズンから解放された私は核心に迫った。
「ってかさ、プロフィールの写真と顔違くない?」
なぜか緊張した。
すぐに返事があった。
「あれは地元のツレ」
はっはーん、なるほど。イケメンの地元のツレの写真を使って女性を騙していたわけだ。
私の中のリトル銭形が鼻をすすりあげる。
こいつぁ許しちゃおけねぇ!こら締めてやらぁ!
「地元のお友達に迷惑かけるから、写真変えたほうがいいよ」
「写真の変え方わからん。もうTinder消したし」
「アプリ消してもアカウント残ってるから、アカウントを削除しないと友達に迷惑かけたまんまだよ」
「消し方わからん」
「ネットで調べたら?いくらでも削除方法出てくるよ」
リトル銭形が追い詰める。
「とりあえず写真だけ変えて、もう一回Tinder消したわ」
よし。
きっとこれで、新たな被害者が出ずに済むだろう。
写真を確認するためTinderを開いた。
反町隆史似のイケメンだったプロフィール写真は…
モアイ像に変わっていた。
…なんかごめん。
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