ナンパ師には気をつけろ。

マッチングアプリ_日本編

相変わらずマッチングアプリで高身長ばかり探していた時、ある男と出会った。
とんでもない男だった。


待ち合わせは茶屋町にある大衆居酒屋。

1時間前に今から飲まない?とメッセージをもらって会うことになった。
それがマッチングしてから初めてのメッセージだったけど、タイミングが合えばさくっと会えちゃうのがアプリの良さだと思っている。

現れたのはプロフィール通りの高身長の男性。顔は載せてなかったけどまぁまぁカッコいい。
私でも一目でわかるほど良いスリーピーススーツを着ていて、大衆居酒屋とそのギャップになんか好感が持てた。

「急に誘ったのにありがと。ほんまに来てくれると思わんかったわぁ」

彼はそう笑いながら安いハイボールを掲げ、私は下に溜まったジャムをひとかきして柚子チューハイで乾杯した。

名前はシュン。
34歳、身長182cm、職業コンサルタント。

当時、巷に経歴に説得力のない「自称・コンサル」が大量に湧いて出て、
そんな奴らはやたらスーツ姿の足元や新幹線移動を自慢げにインスタにアップし、合言葉のように“人脈”を連呼。
その実、仕事の実態はよくわからなくて。君が何をコンサルするねん…みたいな胡散臭い人ばかりに思えた。
一言でいえばコンサルに対して不信感があった。

「コンサルってどんなお仕事なん?ってか、最近コンサルしてる人多くない?」
と不躾な質問を投げかけてみた。

「わかる、なんか増えたよね」

そう笑いながら経歴を話してくれた。

「京大卒業して、MBAを取得しにアメリカの大学院に行って…」
「MBA…え、あのバスケの?」
「うん、それはNBAね」

この質問で察してくれたのか、それ以降は難しい言葉は使わずに説明してくれた。

シュンは京大を出た後、海外の大学院でMBAを取得し、外資コンサルに就職してNY支社で数年働いたが退職、半年前に帰国し今は大手企業の社内コンサルをしているらしい。

なんか凄そうだけどわからん。凄さがいまいちわからん。

とにかく賢い人なんだろう。ちゃんとしたコンサルなんだろう。
ざっくりそういう感じで理解した。


「で、ユキ子ちゃんは?」

私は放送作家をしていること、でも一旦辞めて海外留学に行くことを話した。

そこで終わればいいものを、シュンの顔があんまりタイプじゃなくて恋愛対象外だったのでめちゃくちゃ話した。べしゃり散らした。
サイコロの目がユキ子しかないすべらない話。もうずっと私のターン。

ここまで調子乗っちゃったのは、シュンがすごく聞き上手だったのもある。

完璧な相槌とリアクション。笑ってほしいとこでめっちゃ笑ってくれる。

「普段は俺めっちゃ喋るねんけど、ユキちゃんがおもろすぎてずっと話聞いてたいわぁ」

相手に合わせて話し手にも聞き手にもなれる、これが本当のコミュ力なんだろう。


ふと疑問に思った。
ここまで人当たりがよくて、顔だってまぁまぁカッコ良くて、高学歴・高収入・高身長。普通に生活してたら絶対にモテる人だ。

「ねぇほんまに彼女おらんのん?」

「おらんよ笑 アメリカから帰ってきたばっかだし仕事忙しいし」

「ってかさ、マッチングアプリなんかせんでもシュンは普通にモテるやろ?」

「えー嬉しい笑。俺さ、可愛い子見かけたら絶対声かけるうようにしてんねん」

「ナンパってこと?」

「そうそう。絶対話しかけるようにしてる。めっちゃアグレッシブやで笑」


何もしなくても寄ってくるだろうに、自ら追いかけるらしい。なんて肉食…。

シュンのナンパ遍歴はすごかった。

過去にナンパした子が双子で、その日のうちに双子と3人でした事もあるらしい。
最初は乗り気じゃなかった双子が自ら3Pをしたくなるように流れを作る心理戦は、聞いていてシンプルにすごいと思ってしまった。

気づいたら夜の12時を過ぎていたが
お互いあけっぴろげに話しすぎてそんな雰囲気にもならず解散した。

それからすぐにまた会う事になって、すごくあっさりホテルに行った。

正直、不安はあった。

私はシラフでセックスをした経験がない。
この場合はお酒で酔ってるかどうかではなくて、「いつもと変わらない状態」という意味だ。(実際にも飲んでなかったけど)
私は会った瞬間に恋愛対象に見れるかどうかを判断するタイプなので、恋愛対象ではなかったシュンとは友達と居る時のような女っ気ゼロの自分…“シラフ”な状態で接していた。

シラフでセックスなんてできるかいな。
それが不安だった。


案の定、ホテルに入ってから当時流行っていた映画のタイトルにかけて
「ブラジャー、下から脱ぐか上から脱ぐか」
とか言ってふざけたらシュンが噴き出してしまい雰囲気ぶち壊し。

ほらね。やっぱ今日はもう無理か…。

でも、シュンはすぐに、でもごく自然にエロい雰囲気に持っていった。

気づいたらベットの上に誘導され、スルスルと服を脱がされ
口では普通に話してるのに、お互いを見る視線の湿度が上がる。
空間がリフォームされていく。もう空間の魔術師。

さっきまでふざけていたのが嘘みたいに顔も下半身もす火照り、
シラフでセックスなんてできないと思ってた自分がすっかり劇的ビフォーアフター。


キスを合図に、もう完全に始まった。

実は今まで下半身にまつわる前戯をされるのがあんまり好きではなく、一度も気持ち良いと思ったことがなかったのだが…

なんということでしょう。
羞恥心の壁が、匠の技によって見事に壊され本能が剥き出しになったではありませんか。
ほんまは全然良くないのに演技をしてその場をしのいでいたあの窮屈な時間が大変身。

匠の圧倒的な上手さ。

すごい、すごいよ匠。
たいした経験人数はないけど、君がぶっちぎりのナンバーワンです!


匠の技に酔いしれていると、シュンが言った。

「ねぇ、撮っていい?」

「は?あかんに決まってるやん」

「やっぱり?笑
 昨日、人生で初めてハメ撮りしたんやけど途中で自分の顔写ってて萎えたわ〜笑」

「それは萎えそう笑」

「ツイッターでバリ萎えたって呟いたら、めっちゃいいねきたよ笑」

「ツイッターやってるんや」

「うん。フォロワー2000人くらいおんねん」

「シュンがフォローしてんのは何人くらい?」

「40人くらいかな?」

「え、じゃぁ何でそんなにフォロワーおるん?」

「あー、ナンパした時の話とか俺なりのテクニックとか書いてるからちゃうかな」

「へー。きも」

「きもって言わんとって笑」


こんなに雑談しながらしたのも初めてだ。

もちろん撮らせないまま終わった。
終わってからもベットでどうでも良い話をして、素で話ができるので楽だった。友達の部分がない男友達みたいな。

匠の技に魅了され、それから何度も会った。
割り切ってたから性にオープンになれて、パイずりなるものも教えていただいたし、騎乗位講習会もしてもらった。
セックス中の「ほんまはどっちの方がいいの?」を本人に聞ける会だ。

シュンが私の家に来たこともある。
初めてきた時に部屋に入るなり、本棚ってその人がわかるから良いよね、とじっと本棚を見ていた。

「おすすめの本どれ?」

「あー…これが一番好きかな」

「じゃぁこれ貸して」

「こんな本読むん?」

「だって、返すときまた会えるやん」

こんな言葉をサラッと言える奴は危険ってその時は知らなかったから普通にトゥクンした。
正直この頃にはだいぶ気持ちが持ってかれそうになっていた。というかまぁ好きだった。

何度も会ったし家にも数回来たけど、いつも泊まらずに帰っていく。

もっとシュンのことが知りたい。だけど、出会ってから「作ったからフォローして」と送られてきたインスタのアカウントはまだ新しく、数少ない投稿からは何の情報も得られなかった。

そんな時、「Twitterのフォロワー2000人くらいおんねん」という言葉を思い出した。

すぐにTwitterで「ハメ撮り 萎えた」で検索。
見つかるわけない…と思ったけど、そんな内容の投稿はいとも簡単に見つかった。

プロフィールに飛んでシュンだと確信した。
共通点がいくつかあったし、彼はTinderにある変わった資格を書いていて、Twitterのプロフィールにも同じ資格が書かれていたからだ。


主な投稿内容はナンパの戦歴だった。
シュンがフォローしているアカウントは、同じようにナンパの戦歴ばかりポストしている“ナンパ師”ばかりだった。

未開の界隈に足を踏み入れてしまった。


そこには聞きなれない単語ばかり並んでいた。
以下、文脈からおおよその意味を推測した単語リスト

「スト」…ストリート(ナンパすること)の略
「スト値」…ナンパした女性のスペックを数値化。
「即」…ナンパしてそのままやること
「即ホ」…ナンパしてそのままホテルに行くこと
「Lゲ」…LINEのIDゲットの略
「グダ」…スムーズにホテルに行けない時
「放流」…解散すること


たかがナンパといえど、彼らが本気でやっているのがわかる。
どうやったら即れるかを本気で考えて試行錯誤していた。

いろんなブログを見ると、大阪夏の陣と題して2人1組でナンパを行い、制限時間内により多くの即を決めれば勝ちというイベントも開催されたらしい。




怖えぇよ…。

え?これ大阪の話?新宿とかじゃなくて?
夏の陣の餌食になった女性が何十人とおるってこと?
その中にはきっとまんまとナンパ師を好きになってしまった女性もいるのでは?
好きになっちゃダメなのに、でも好き。
そんな気持ちになっちゃったのでは?
辛い。辛すぎる。そら加藤ミリヤも売れますわ。


忘年会には100人のナンパ師が参加し、その中で今までナンパしてヤった女性たちのビジュアルを競う大会も催されたらしい。
ビジュアルがいい人を「スト高」、逆に良くない人を「スト低」として
エントリーしたナンパ師が写真をスクリーンに映し出し、誰が一番かを決めるというもの。




クソじゃねぇか。
クッッッッッッッソ野郎どもじゃねぇか。

もう人でもなく、悪魔とか魔物とかそいう類の悍ましい存在。
ナンパは勝手にどうぞやけど、画像を他人に見せるのは一線を越えている。


そういえば。
シュンと騎乗位講習会をしたときに、
「どう説明したらええかな…。あ、そうやこれ見たらわかりやすいかも」
とハメ撮りした動画を見せてきた。
スマホからすぐ出てきたし、女性の顔はしっかり映っていたし、ちらっと見えた画面には他にも大量のハメ撮りがあった。




怖えぇよ…何が匠だよ…

本当に許可をもらって撮ってるのか。
もらってたとして、こんなに顔がしっかり映ってることを女性は了承してるのか。
動画はどこにも流出させてないのか。

アカウントを送って、これシュン?と聞いたら違うよ、とだけ返ってきた。
数日後ナンパ師のアカウントは消えていた。
それからシュンとは会わなくなった。



数ヶ月後、私は留学のためNYに旅立った。

NYに着いて初めての夜。
期待と不安と時差ボケがごちゃ混ぜで全然寝れなかったので、ベットでインスタを見ていたらシュンが久しぶりに更新していた。

内容は「差し入れいただきました」の一文と箱に入ったドーナツ。

お店が気になってタグ付けされた店名をクリック。ドーナツや店の外観、店内なんかを見ながら、へぇ大阪にこんなお店できたんだ、とスクロールしていたら見つけてしまった。

シュンと全く同じ写真を使っている女性のアカウントを。

そのアカウントにはシュンの顔をコピペしたみたいなそっくりな小さい女の子が映っていて、幸せそうな家族3人の生活が垣間見れた。



半年後。私が帰国してから少し経って、貸していた本を返してもらうため少しだけ会うことになった。
(面倒だったらいいけど友人からもらった大事な本だから郵送してくれないか、と伝えたらシュンから直接返したいと提案されたのだ。)

待ち合わせ場所の阪急百貨店の前に行くと、シュンは私を見るなり満面の笑みで両手を広げてハグを求めてきた。
そのまま少し立ち話して、別れ際は「長い間、本借りちゃってごめんね」と人気店のカヌレをくれた。
やっぱりこの人はモテる。妻子持ちだけど。



それから、私たちが再び会うことはなかった。

Twitterもインスタも消えて、今はLINEもわからない。

この先、2度とシュンに会うことはないだろう。

でもね。

今更だけど君に聞きたいことがたくさんあるよ。


会わなくなって2年。急にLINEをくれたね。
ご家族が病気だから、私の彼氏から治療費を数百万円ほど借りられないかって。
彼氏の実家がワイナリーを持ってるから裕福に思ったのかな。でも私にそんな権限はないの…力になれなくてごめんね…。その後ご家族が良くなっていたらいいけれど。

2ヶ月後に同じ件でまた頼ってきてくれたね。
本当に申し訳ないんだけど、答えはやっぱり変わらないよ。

そしたらすぐに、今度は「世の中のために社団法人を作るから出資してほしい」って言っていたね。
ごめんね、理由が何であれ私があなたにお金を貸すことは一生ないよ。大金を貸し借りするほどの信頼関係ってどこにあったかな?

NYに留学中におすすめのお店聞いたら、超有名な高級店ばかり送ってきたけど、
本当にNY住んでた?

教えてくれたインスタ、絶対に捨て垢だったよね?

経歴はどこまでが本当だった?

本当の名前は?

結局、君は何者だったの?

今となっては全て確かめようがない。
でもさ、全部わからんままでいいから、

これだけ、これだけはちょっと本気で教えて欲しいんだけどさ…

「講習会してくれたから払うわ!」ってドヤ顔でホテル代を払ってる私を撮ってたよね?
あの動画って消してくれた…?


なびくな、惚れるな、撮らせるな。
みなさんもナンパ師にはお気をつけて。

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