ある欲求が、数年に一度やってきて、無性に私を掻き立てる。
「ハモりたい欲」
そう、誰かとハモりたい。ハーモニーを楽しむあれをしたい。
カラオケで楽しむ少人数のハモりじゃなくて、
できれば合唱祭のように大人数で、ダイナミックにハモりたい。
何故かどのクラスにも絶対に1人はいる上手にピアノが弾ける女子の演奏の元、
小柄めな女子達と学校外で合唱団に所属してるから1人本格的な歌声で目立ちすぎる女子が織りなす高音のソプラノと、
半分下とか半分上とか中途半端な音程ばかりだけど、2番のAメロは私たちが主役!歌に厚みを加えて合唱を豊かにするアルト。
そして、「ちょっとぉ、真面目に歌ってよ!」な、男子。
みんなで心のメタファーこと、歌声を1つに合わせてメロディーを奏でたい。
アラサーだけど、あれをもう一回やりたい。
まぁ、高校卒業してから十数年、合唱する機会なんてないんだけど。
ないからこそ、ハモりたい欲求が、2年周期くらいで巡ってくるのだ。
なるほど、これが「青木のお母さん、公民館の合唱団入ってるんだって〜」の正体なのか。
青木のお母さんもこの欲求に悩まされているのだ。
今海外に住んでなかったら、間違いなく私も公民館に週一で通ってると思う。
自慢だけど、中高の6年間、私のクラスはずっと金賞だった。
なぜなら、私が常にクラスを引っ張っていたから。
カツオでいうところの花沢さん的に、言葉で鼓舞するタイプの引っ張り方をする、うざい系女子★だった。
肝心の歌はというと、
ソプラノで主旋律を歌い、歌声鼓舞をしたかったけど、声が低いので晩年アルト。
でも、アルトが音を添えることで、「左手は添えるだけ」の左手になることで合唱全体が安定することに快感を覚えていた。
高校卒業後は合唱祭なんてないからハモるといえば、カラオケ一択である。
私は主旋律よりも、その半分上とか半分下とか中途半端な音階を歌いたかった。
カラオケではそれを、どこぞの歌手なり損ないが歌ってるのがすでに伴奏に入っている。
それに、あの狭い部屋で画面に向かって歌うというのも閉鎖的で違う。
ダイナミックに、声をバーーンと前に飛ばしたいのだ。
1度だけ、そんな欲求を叶えられるチャンスがあった。
友達に誘ってもらって、初めてキャンプに参加した時。
8人くらい居たが、誘ってくれた友達以外は皆さん初めまして、だ。
しかも、皆さんめちゃくちゃオシャレ。
これは緊張する。
キャンプの作法がわからない上にオシャレ軍団ときた。
ノリがわからない。
あんまりオシャレじゃない私は、バレないようにオシャレ軍団のノリに合わせた。
オシャレ軍団たちはテキパキとテントを組み立てて行く。
あっという間にテント群と食卓、料理スペースが完了した。
テントには三角のフラッグ?って言うの?あれもハンモックも吊ってある。
友人「じゃぁ料理班以外はみんな適当に〜。あ、ユキ子はゆっくりしてて〜」
えぇ・・・ゆっくり仕方がわからない・・・私も料理班に入れて欲しいのに・・・
私のモジモジをよそに、友人達はすでに料理を始めてしまっている。
なんと、おっきい中華鍋まであった。
私「へー!キャンプで中華鍋使うんですね!何作るんですか?」
オシャ①「え?これ鍋じゃないで?」
オシャ②「これはスティールパンっていうカリブの楽器やねん」
私「・・・(パラパラチャーハンを作る鍋にしか見えへんがな)」
オシャ達 「あはは!ユキ子ちゃんめっちゃおもろいやん〜!」
これだからオシャレは怖いのよ!!!!!
下手なこと言ったらオシャじゃないことがバレてまう。
何か、何か作業をください!!!!!
友達 「じゃぁ、ケサディーヤと、スキレットでフォンデュ作るから野菜切ってくれる?」
と、ナイス指令を仰せつかった。
よし。ただ野菜を切ることに専念しよう。
(完成形がぼんやりとしか浮かばないけど。ケサディーヤってなに?野菜は何切りしたらいいの?)
すると、一人の男性がウクレレを弾きだした。
友達「やった〜!つっさんのウクレレや〜!」
つっさんは歌が上手らしく、彼が歌うのがキャンプのお決まりらしい。
つっさんのウクレレにカリブの中華鍋も加わって、
井上陽水の「少年時代」をゆっくりアレンジで弾き語りしてくれた。
(よかったぁぁぁー!知ってる曲でよかったぁー!!!!)
確かに歌がめちゃくちゃ上手くて思わず聞き入ってしまった。
曲が終わり、みんなが拍手する。
「じゃぁ、次は・・・夏色!」
ジャカジャカとウクレレをかき鳴らし、つっさんはゆずの「夏色」を歌い始めた。
(よかったぁーーー!これも知ってるーーー!!「逆にJ―POPっしょ!」って種類のオシャノリでよかったぁぁー!!!!)
すると、友達がよくわからない健康器具みたいなマラカスを鳴らし始めた。
それに続いてオシャ①が、菜箸でお皿を叩いてリズムを取り始める。
え?
他オシャ逹もそれに続く。
テーブルを叩くオシャ、空いてる鍋の底を叩くオシャ、単純に手を叩くオシャ。
夏色でみんなが覚醒してしまった。
なにこのノリ。
オシャレなの?オシャレって、鍋の底叩くの?
ついていけない・・・私はどうしたらいいんでしょうか?
とりあえずゆっくり体を揺らして精一杯のノリを表現してみたけど、違う気しかしない。
サビを前に、演奏も熱が入り、気づけば私以外のみんなが歌っていた。
・・・これはもしや!
ゆずといえばハモり!
しかも、食器でリズムを奏でちゃうくらいの音楽好き逹!
これは合唱祭以来の男女混合大ハモりが聞けるのでは・・・!?
1番は様子見して、2番からは私も一緒にハモれるのでは!?!?!?
と、期待を膨らませ迎えたサビ。
「この長い長い下り坂を〜♪ 君を自転車の後ろに乗せて〜♪」
まさかの全員ハモりパート。
みんな半分上とか半分下とか中途半端な音階を歌っている。
主旋律が不在。
しかも、独特なハモりの奴おる。斜め右とか左下とかおる。
音が散らばりすぎている・・・
これは・・・ただの不協和音でしかない。
誰もハモりパートを譲らないから、サビは最後まで不協和音だった。
これだからオシャレは!!!!!!!!
左手は添えるだけやねん。左手だけで打ったらあかんがな。
結局、私のハモりたい欲は解消されず、あれから数年。
最近はいっそ地元の聖歌隊に入ってみようかしら、だなんて考えている。
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