商社マンとの飲み会で、ジャンヌダルクが降臨した夜(前編)

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商社マンとの飲み会が史上最悪だったけど、突如現れたジャンヌダルクによって救われた!
という、なんともこってりとしたある夜の話。


商社マンといえば高学歴•高収入。見た目だって洗礼された男性が多い。
婚活中の女性であれば誰もがお近づきになりたいと思う、いわゆる「ハイスペック男子」。
海外赴任も多い彼らと結婚すれば、駐在妻(通称・ちゅー妻)になれるのも人気の理由だろう。

そんな“憧れの商社マン”との飲み会に参加することになった。

―――

あの日、夕方にサヨから連絡が入った。

「今夜、◯◯商事の子から飲み会来ない?って誘われたん…」
行くわ!

食い気味に元気な返事をして、3大商事との飲み会が決まった。

今夜は合コンではなく、社員だけで送別会があり、その2次会。
後輩が気を利かせて「女の子呼んでます!」のあれだ。

サヨはデザイナーで、可愛くてスタイルも良いオシャレな「イケてる女子」。
故に招集されたのだろう、私はそのおこぼれに預かる形で参加した。


5分ほど遅れてお店に着き大きな半個室に案内されると、20人以上の大所帯が2つのテーブルに分かれて座っていた。


一目で右が先輩テーブルなのがわかった。

なぜなら可愛い女の子は右テーブルに座らされてたから。


右テーブル(1軍)はすでに盛り上がっているが、露骨に左テーブル(2軍)は地味な大人しい女の子が所在無さげに座っている。
残酷なまでの1・2軍システムだ。


遠くから私たちを見つけたサヨの友達(幹事)は、
「サヨちゃん久しぶり!来てくれてありがとうな!先輩、デザイナーのサヨちゃんです」

サヨ「初めましてー」
先輩「初めまして!サヨちゃん可愛いね、こっち座りなよ!」

まずはサヨが1軍テーブルに座る。そのすぐ後ろに居た私を見て先輩が言った

「あ、君は向こうね」




…っすよね!!!
だと思っておりました、1・2軍振り分けルールを理解した瞬間から。
心積りはできていたので甲子園球児が守備位置に向かうかのごとく颯爽と左テーブルについた。

するとサヨが「あ、友達と座りますねー」と自ら2軍に降格してきた。(キレイな子は心もキレイ)

2軍テーブルには私たちの他に大人しい女性が2人、◯◯商事の5人が座っていた。
初めて出会う、みんなの憧れ“商社マン”。確かにカッコイイ。

席に着き、改めて彼ら見た。
イケメン



ではない。
イケメンじゃないぞ。あれれ?


一瞬カッコよく見えたのは、身につけているものがしっかりしてるからだとすぐに理解した。

3ピーススーツに、高そうな時計、刈り上げとけば良いと思ってるヘアスタイル。
何より「オレ、3大商社っす!」という前のめりな自信が、彼らを一層カッコ良く見せていた。

顔は全然イケメンではないけど、カッコイイ雰囲気…。

この感じ、どこかで…
あ、これ、あれや。





ゴスペラーズや。

Mステに出るときのゴスペラーズ。
彼らが作り出す圧倒的なハーモニーは全員がメインボーカルを張れるほどの歌唱力と技術力によって生み出される。自信に満ちた彼らは文句なしにカッコイイ。顔がちょっとアレでもカッコイイ。

ほどなくして、幹事の乾杯の音頭により正式に飲み会がスタート。
楽しそうな1軍テーブルに比べ、2軍テーブルはやや盛り上がりにかけていた。

ゴスペラーズの1人が話しかけてきた。

「で、2人は何歳なのー?」

名前より先に年齢を聞かれたのは初めてだ。職質なのだろうか。

ほんで気になる「なのー?」。
標準語が絶妙にイラッとさせる。


私は27歳。
彼らは24〜26歳だった。


年齢を答えると、彼らは態度や言葉の節々でマウントをとってきた。
「俺らが選ぶ側ですよ」と言わんばかりである。

またか…。

正直、25歳くらいまではチヤホヤされた。
ビジュアル均衡法(参照:「マッチングアプリで高身長イケメンと出会った話①」)でよっぽど点差が開いていない場合は、大抵は私たち女性側に選択権があった。
まるで陳列棚に並んだ果物を選ぶかのごとく、男性達を品定めしてきた。

その潮目が変わってきたのが27歳だった。

今まで選ぶ側だったのに、27歳になってからは「選んでもらう側」に変わったと感じる機会が増えた。

陳列棚に並べられ、彼らに手にとってもらえるよう美味しそうに着飾ったり、優しさの安売りをしないと選んでもらえなくなった気がする。

そして今回。
相手は私たちよりも年下の商社マン。

2軍テーブルの大人しい女の子達は彼らと同い年くらいだが、
合コンしたい会社No1に勤めていらっしゃる彼らは、「俺らの方が上」と認識したのであろう。

今回の飲み会で、陳列棚に並べられたのは私たち女性側だった。
気にくわないけど、事実だ。


しかし2時間後、この不快感をジャンヌダルクがぶった斬ることになる。


――
飲み会が始まってから15分ほど。


自己紹介の延長のような会話をしていると、
急に一人がポンポン言い出した。

比喩とかじゃなくて。
マジでポンポン言い出した。


ポポポーンポポーン!

実は彼らの中にアフリカの先住民の子孫がいて、お酒を飲んだらその血が疼きだし、遠い母国の儀式を始めた、とかじゃないと説明できないくらい突然だった。

ポーン!ポポポポン!ポッポッポポーン!!


えぇ…

「ほら飲んで飲んで!」

隣のゴスペラーズにお酒を促される。
ポポーンは儀式ではなく、飲みコールらしい。

飲まないとポポーンが終わらない空気だったので、とりあえず残っていた少量のお酒を飲み干す。

フーー!!!と盛り上がるゴスペラーズ。

この大学生みたいなノリ…懐かしさすら感じる。

それからもゴスペラーズの誰かが何かしらのワードに反応し、飲みコールが発生していく。

彼らが本物のゴスペラーズだったらさぞ綺麗なハーモニーを聴かせてくれたんだろうけど、聴かされてるのは下品で面白くもない自己満ウェイウェイ飲みコールだった。

しんどい。

私たちの気持ちを察してか、1人が説明してくれた。

「あ、引いちゃうよね?ごめんごめん笑
俺らもやりたくないんだけど伝統みたいなもんでさぁ、仕方なくやってんだよね〜。
新人の時なんて、仕事終わりにコール練習とかあったからね笑」


…全然、察してなかった。
自虐風自慢だった。

大学生の「オレ、忙しくて全然寝れてないんだよね〜」と同じ。
飲みコールも自虐風自慢も大学で卒業するものだとばかり思っていたよ。

その後も、会社伝統のコールが続く。
お酒を飲ますためのゲームも行われた。

「山手線ゲーム!!」
「イエーイ!!」
「じゃぁ俺から!

…新宿!」


ほんまに山手沿線言ってどうするん?
ここは大阪やで、知らんがな山手線の駅名。せめて環状線にしてくれよ。

まだ30分も経ってないけどすでに来たことを後悔していた。
これだったら家で指毛抜いてた方が100倍楽しい。それくらいおもんなかった。


会話にならないし、若すぎるノリにも疲れていたが、
一際テンションの高い男がヘラヘラと放った一言で、疲れが怒りへと変わった。

「サヨちゃんってさぁ、猿みたいだね!」


なんやて?

猿やて?
ちょっ君、どの面下げて…失礼がすぎるぞ。

しかも全く面白くない。例えとしても0点。
面白くない例えは大罪ってこと知らんのか。

すぐサヨからLINEが届いた。

「こいつらマジないわ。早よ帰ろ」


完全に同意である。
私がぞんざいに扱われるのはええけど、友達を貶されたんじゃぁ話は別だ。

幹事に帰ることを伝えたが、
「あと30分くらいで別の店に移動しようと思ってるねん。先輩の手前、そのタイミングまでおってくれへんかな?」
とお願いされてしまった。
幹事は嫌な人ではないし、サヨの知人だ。彼のために2次会終わりまでは残ることにした。


そして30分後。

やーーーーっと終わった。
コールに耐えて、よく頑張った…!


お店を出て、幹事が3次会の案内をしている。

「カラオケ予約してるんで、今から移動しますー!」

もちろん行くわけがない。
私たちは少し離れたところで帰るタイミングを図っていた。

「今日の飲み会、最悪やったな」
「やばかったよな」
「コールとかありえんわ」
「大学生かよって感じ。2次会カラオケやって」
「行かねー笑」


その時、ある感情が疼いた。

正直に言おう、ちょっと楽しかったのだ。
不愉快だったけど、コールのノリとかまじ勘弁って感じだったけど、ここまで酷い飲み会は初めてで一周回って楽しかったのだ。

しかも次はカラオケ。
きっと伝統のコール、カラオケ版が存在するはず。

好奇心が疼いてしまった。

「飲み会でこんだけ酷かったってことは、カラオケ行ったらとんでもない地獄の底見れるんちゃう?なぁ…1時間だけ行ってみん?」


数秒の沈黙の後、鋭い目でサヨが言った。

「行こか」


こうして好奇心の奴隷になった私たちは、カラオケへと向かった。

3次会のカラオケで、この不快感が爽快に吹き飛ばされることになる。


次回歌とコールを終わらせし者現る〜ジャンヌダルク降臨!〜

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