女ランボーはヒーローになりたかった

思い出ぼろぼろ

ここはマルタ共和国。
誰かが私に銃口を向けて走ってくる。
“やばい、撃たれる!!”
…その瞬間、音楽が鳴り響き相手の動きが止まる。どうやら仲間の誰かが上手くやってくれたようだ。

私たちは勝ったのだ。


やかましわ。
サバゲーの話です、すみません。それっぽく書きたかったけれど、思ったより早く文章力の天井にタッチしてしまった。

サバゲーのある人生


みなさんはサバゲーをやった事はあるだろうか?
というか、興味ある?

ほとんどの人はないよね、うん、私も全くなかった。
クワガタに対する興味度と同じくらい。ほぼゼロ。

だから一生サバゲらない人生だと思っていたけれど、今や1ヶ月に1回サバっちゃうほどハマっている、

ハマった理由の一つは、刑務所跡でサバれるから。
実際に使われていた刑務所の一部を改造し、独房や檻がそのまま残る中でサバれる、なんとも贅沢な施設がマルタにはあるのだ。
しかも、機材は全てレンタルできて3時間で1人約2800円。これは安い!(相場知らんけど)
そんなんで、先日もサバってきた。

この日、私は女ランボーになった

ルールは簡単だ。
2チームに分かれ、3カ所に設置されたポールを取り合う“陣地取りゲーム”。
頭にセンサー付きのヘアバンドを巻き、数回打たれるとライフがゼロになって、振動と共に「You are dead !!」と声がする。怖い。何かしらの洗脳に使えそうなくらい怖い。
建物の両端の外壁には大きなボタンが設置されていて、そこがそれぞれの基地だ。ライフがゼロになったら、基地に戻りボタンを押さないと生き返れない。

基地で次のゲームに向け作戦会議をしていた時。
気配を感じて振り向くと、4〜7歳くらいの子どもたちが5人、目をキラッキラさせてこちらを見ている。
そういえば、併設されたバスケコートで試合をしてたから、お兄ちゃんやお姉ちゃんの試合を見に来たのかな。「初めて銃を目にして、興味津々なんだろうな」くらいにしか思ってなかった。

すぐに2回戦が始まった。
ゲームが始まると、ほとんど基地とポールの往復になる。ガンよりラン。高校の体力測定ぶりのシャトルラン。もうね、めちゃくちゃにしんどい。「お金払ってなんでしんどい思いせなあかんねん!」と腹立ってくる。あぁーしんどい。

5往復目くらいだっただろうか、疲れてシャトルでランができず、シャトルウォーク状態のまま基地に戻ると、さっきの子ども達と目があった。

「あぁ、まだおったんや。ここじゃぁボタン押すだけだし見てても面白くないやろなぁ」

「…」

「…そうや!」

大阪のオバチャン的なサービス精神がふわっとほとばしった私は、ほぼ反射的に、子ども達にむかって

銃を撃つ真似をした。
ランボーのように。

口で「バババッッ!!!」って言いながら。
言ったよ声に出して。

そしたら子ども達、大喜び!
そりゃそうよね、だってまだあまり見たことないであろうアジア人がランボーしてるんだもの。しかも女ランボー

人ってさ、人が笑ってくれたら人って嬉しいじゃない?だから私も「子どもを楽しませたぞ!」という満足感を元気に変えて、足取り軽く戦場に戻ったわけ。もう一度ランできるくらい元気もらったわけ。

…まぁ、戻って秒で撃たれるんだけど。
元気があれば何でもできるってのは猪木さんに限った話らしい。

すぐにライフを消費し基地に戻ったら、子どもたちが歓声と拍手で迎えてくれて。

え?私?私に?
人生で初めて、こんなに歓迎されてるんだけど?
嬉しくて、気づいたら凱旋パレードの金メダリストのように手を振って応えていた。

あるオリンピック選手のインタビューがよぎった。
「応援してくれる皆さんに支えてもらいました。皆さんのために戦います!」
みたいなことを言っていたが、当時、私はこれが全く理解できなくて
「あなたが頑張った結果オリンピックに出れたんだから、そんな良い子ちゃんぶらなくても良いのに」だなんて思っていた。

でも、今、与える側になって初めてわかった事がある。
誰かに何かを与える、ということは、本当は自分がより多くの元気をもらっていることなんだって。真の強さに一歩近づいた私は、今までで一番速く戦場に戻った。

はしご戦の最中に。

戦場でライフがゼロになった時、もう一人の私が渇をいれる「はい!切り替えて!」
落ち込んではいられない。私はもう1つの戦いを抱えているんだから。子ども達を笑顔にするための戦いを。

レーザ銃で撃ち合う戦いよりも、子ども達を楽しませる戦いのほうが、むしろ尊く感じた。その時の気持ちはもうヒーロー。ヒットマンよりアンパンマンになりたい。
心なしか、基地に戻るときのほうが足が軽い。

さぁ、急いで戻ろう、次の戦場に!!

私は基地に戻るたび、いろんなパターンを試してみた。
基地前の窓から、子ども達を銃で狙ってスナイパーしたり、
基地に戻る時、大げさに滑り込んでみたり、
「I will be back」って言いながらシュワちゃんしたり。
(ちなみに、これは子ども達がターミネーター知らんからばばスベった。)

次はどうして笑わせようか?
どうやったらこの子たちは楽しんでくれるだろうか?
戦から戦へ、はしご戦しながら必死に考えた。
全ては子ども達を笑わせるために。

そんなことを繰り返して10回目くらいだろうか。
「シンプルに女ランボー再び!」で子ども達を笑わせた後、基地を出て行こうとすると、1人の少年が入口に横に立っている。

少年は静かに手を掲げた。

「OK!ハイタッチね!」って。すぐに察した。
私達の間に目で会話できるくらいの絆は生まれていたから、少年の言いたいことはすぐわかった。
仲間の証として、パーン!!ってやるヤツね!」って。スラムダンクの山王戦の桜木と流川みたいに。見開きページでハイタッチの部分よく見れなかったけど、あの時の桜木と流川をするんやな!って。

私は少年とアイコンタクトをとり、走り去り際、勢いよく少年の手を叩いた。

と、思ったら、空気を切る私の手。
え?

少年は手をスって下ろしてる。
え?

後ろで子ども達、大爆笑。
今日イチの大爆笑。


おいおい、遊ばれとるやないか。
少年も得意げな顔である。
笑い声を背中に浴びながら察した。子ども達を「笑わせてた」んじゃなくて「笑われてた」のだ。

数秒前まで、私は驕り高ぶっていた。
暇そうにしている子ども達に、楽しい時間を”私が”提供してあげていると思っていた。遊んで“あげている”と。

恥ずかしい。
相手は子どもやぞ。遊びの天才や。
天才を前に小賢しいアイディアを持った私が「楽しませてあげよう」だなんて、おこがましいったらない。
正しくは「私を道具にして、どうぞ楽しんでください」だ。


結局、女ランボーはヒーローにはなれなかった。
ちなみに、サバゲーも負けた。

学び多き、穏やかな日曜だった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました