断食ダイエットしたら、親を泣かせてしまった(完)

思い出ぼろぼろ

修行最終日。
(前回までの話はこちら→1話2話3話

この日、私は人生でいちばんキレイな涙と、人生でいちばん悲しい涙を流すことになる。

いよいよ滝行へ!

いつも通り朝4時起きで回峰行(山登り&叫ぶ修行)をこなして、

朝食(ニンジンとリンゴ半分をミキサーにかけた野菜ジュース)を済ます。

9時過ぎ。

滝行へ出発。

車で走ること30分。
着いたのは山の中腹にある駐車場。

そこから細く険しい山道を1時間ほど登った所に滝がある。らしい。


え、また山登り?
さっき登って降りたとこなのに、また登るん?

これはダルい。だいぶとダルい。
どうにか車でガガガっと行かれへん?

内心、文句タラタラである。
修行したとは思えないくらい邪念だらけ。
3日間の修行ではびくともしなかった邪念。
私のコアに鎮座する邪念。
これはもう、私が邪念を抱いてるんじゃなくて、
邪念が私という器を使っているだけなんちゃうかしら。

もはや私は…邪!



邪がふてくされていると

「おはよーございまーす!」

と、元気な声。
滝行だけに参加する人たちだ。

元気な大学生7人と、
月一の滝行に毎回参加しているベテラン勢が6人と合流した。

和尚と指導係のスネさん、
セミナー講師・ケンさん率いるセミナーフレンズが8人。
そして邪。


総勢24名の大所帯で、いざ滝行へ!

―――

滝がある上部まで、スネさんを先頭に登山が始まった。

大学生は楽しいハイキング♪な雰囲気でスネさんの後に続く。

邪は体力の無さを自覚しているので、最後尾へ。

そういえば、和尚とセミナーフレンズの1人、ヒデちゃんは足が悪い。
2人は朝の回峰行(山登り)ではいつも、車で山頂に先回りしていた。

ヒデちゃんはケンさんの会社の従業員で30代前半だが、
脳梗塞で半身不随になり、歩行には専用の松葉杖が必要なのだ。

そんなヒデちゃんに、この山道は険しすぎる。
回峰行に比べると距離は短いが、勾配がはるかに急なのだ。

「僕は滝に打たれることはできないけど、みんなが滝修行するところをビデオで撮っておきたいんだ!」

そう言って険しい山道をゆっくりと、でも一歩一歩進むヒデちゃんに、
さすがの邪も恥を覚えた。

滝行、開始です!

登ること1時間半。やっと滝に着いた。

あーしんどい。
朝の回峰行よりもキツイ。

でも、本番はこれからだ。



滝は40メール超

まるで天に昇る龍のよう。
初めて目の前で見る滝に圧倒される。


岩陰で白装束に着替え、滝のふもとに集まると和尚が手順を説明してくれた。

滝行は2周するらしい。

1周目はリハーサル的に4人1組で。
どこから入水し、どこで止まり、何を叫ぶかを確認。


滝行ポイントまでは、ひざ下まで水に浸かりながら10メートルほど進む。

これがめっちゃくちゃ寒い。
そりゃそうよ、だって今日は12月28日なんだもの。

しかも、足元には苔の生えた岩。
めっちゃスベる。
バシャーンと前のめりにコケてヘラヘラしてしまったけど、周りはそんな空気じゃない。


2重の意味でスベった。

なんとかポイントに着くと、滝に打たれながら手を合わせ、

「南無大字遍照金剛(なむだいじへんじょうこんごう)」と3回、大声で唱える。



これは得意よ、毎朝やってるもん!

と、余裕ぶっこいていたが、とんでもなかった。



息ができない。

重い…滝が重い。

滝って、重いんや…。

真冬の冷水でこわばる体に、40メートルも上から勢いよく滝が降り注ぐ。

首の後ろからズドォーーーンって。

もうね、その威力ったら、
なんでここに白鵬?って思ったよね。

頭上から白鵬にドロップキックされたくらいの衝撃なわけ。
白鵬…あなたプロレスもできたの?って。異種格闘技戦で勝つタイプの力士なの?って。

しかも超冷たい。

真冬の滝行をなめていた…。

息ができない。
寒い、痛い、白鵬、怖い…


「落ち着いて!呼吸に集中!!!」

炭治郎?いや違う、和尚だ。
落ち着いてって…あなたは砂利の上に立ってるから余裕かもしれんけどやな…

呼吸が出来ない事に焦り、余計に苦しくなる。

このままじゃムリだ。
白鵬を振り払わんと、口を開けられない。

滝の芯を少し外したところに体を動かし、直撃を避けると、
スーッと空気が入ってきた。

息、できたー!

あとは、お得意の叫ぶやつ。
白鵬を振りほどき、「南無大字遍照金剛」と3回唱えた。

溶ける邪念、美しき涙

全員が1周目を終え、いよいよ滝行本番。
ここからは一人づつ滝に打たれる。

そしてもう1つ、リハーサルと違う点が。
「南無大字遍照金剛」を唱えた後に、叫ぶのだ。


願いを。

例えば、滝行常連の男性は「家内安全!」、
大学生の男性は「第一志望に就職できますように!!」

ってな感じで。願いを叫んでいく。

1周目を終えたことで緊張が緩んだ大学生達は
仲間の一人が「彼氏ができますようにー!」と叫ぶと、フーッ!と盛り上がっていた。

そんな後に邪の番。

まぁ、叫びましたよ、

「痩せますようにー!!!!!」って。


心の中で。

叫べるわけないじゃん、恥ずかしいもの。
大学生にフーって言われたくないもの。


和尚の「願いは心の中で唱えてもいいです」って言葉に甘えさせていただきました。

恥ずかしいという邪念のせいで、参加者の中で唯一、声に出さずに願った。

邪念は滝でも洗い流せなかった。



そろそろ2周目も終わりに差し掛かった頃。

ずっとカメラを回していたヒデちゃんが「僕もやりたい!」と言い出した。

ヒデちゃんは半身不随なので、杖なしでは歩けない。
しかも原因は脳梗塞。

真冬の滝行はヒデちゃんには負担が大きすぎる。

和尚は、君には危険すぎるから、と断ろうとした。

その時だった。



「私が彼を支えます」


ベテラン勢の一人が手をあげた


「私は医者なので、危険と判断したらすぐに止めますから。どうか彼にも滝行をさせてあげてください」


ウェーイ!してた大学生達も静まり返る。


「僕が逆側の身体を支えます!」


他のベテラン勢も続く。
邪は思った。




ドラマやん。

いや、一瞬は、私も支えよか?ってよぎったよ?
でも、逆にお荷物になるやろなって。呼吸もままならない奴がおったら。
ヒデちゃん支えなあかんのに、白鵬とプロレスしてる奴おったら邪魔やんな、って。

だから、ここは経験豊富な方々にお任せしよう、と。

結局、ベテラン勢4人が身体を支え、
少しでも危険だと判断したら即中止することを条件にヒデちゃんの滝行が始まった。


滝下のポイントまで行くのに、私たちの何倍もの時間がかかった。
時間がかかればかかるほど、足が悴んで感覚が無くなり、余計歩きづらくなる。

なんとかポイントにたどり着いたヒデちゃんは、遠目に見ても苦しそうだった。

「南無大字遍照金剛」を大きな声で唱えるヒデちゃん。


あとは、願いを叫ぶだけ。
邪は想像しながら静かに見守った。


ヒデちゃんは何を願うんだろう?

若くして半身不随になる前は、きっとやりたい事がいっぱいあったはず。
出来なくなった事がいっぱいあったはず。
不自由な事だらけなはず。



何を願うんだろう?



ヒデちゃんは叫んだ。




「みんな、いつもありがとう!!!」





鳥肌がたった。

感謝なんだ…。
願いよりも、感謝…。



和尚も思わず水に飛び込むと、ヒデちゃんに駆け寄り抱きしめる。

なんて美しいんや…!


コアで鎮座していた邪念が溶けてゆく…。

今までの私だったら、
滝に打たれて、ヒデちゃんのメガネが、ジャイアンにボコられたのび太のメガネくらい斜めになってることにニヤついてしまってただろうけど、

そんな事どうでもよかった。

邪念なんかで、この清く尊い感情を汚したくなかった。


無意識に空を見上げた私の頬を、静かに涙が伝った。

美しいモノを見ると、人って涙が出るんだなぁ。

隣から大学生のすすり泣く声が聞こえた。

断食道場、終了!

滝行を終え、山を下り、宿舎に戻ってきた。

昼食を食べたら、3泊4日の修行は終了だ。


最後の食事は、回復食として和尚お手製の具のないお粥と梅干しが出た。

味のないお粥が本当に美味しい。
心からの「おいしっ…」がこぼれる。

間違いなく、人生で一番ありがたく頂いた食事。

ところで断食の効果はどうなのよ?とね、気になる方も居るだろう。
(「断食 ダイエット」で検索してこのブログに辿り着いた方は、結果まで長々とかかって申し訳ない)

断食道場で3泊4日過ごした結果は…


キロ減。

最初の1日こそ空腹感があったものの、それ以降は何かを食べたいと思うことも、しんどくなることも無く、むしろ頭は冴えていた気がする。
4日目ともなれば、コップ1杯のジュースで満たされた気持ちにすらなった。


思ってたより痩せてないじゃん!と感じたかもしれないけど、
数字以上に、私の心は軽やかだった。

それから私は和尚とセミナーのみんなに感謝を伝え、私は清々しい気持ちで実家に帰った。

心を鍛え、精神の向こう側に…!という私の目標は達成されたのだった。



ーー
電車で数時間かけて実家に帰った。

空腹感があったので駅構内のコンビニに立ち寄ったが、何も欲しくなかった。
コーヒーすら口にしたくないと思った。

これにはビックリ。

修行で「食べること」の有り難みを感じていたので、コンビニで売られているような食料品を口にしたいと思わなくなっていたのだ。

清い物だけを体に入れたい。

おぉ、これぞ精神の向こう側。



実家に着いた頃には19時過ぎ。
先に帰省していた兄が迎えてくれた。

兄、やたらシュッとしている。

「どうだった断食?
でもなー、断食とか意味ないで。ちゃんと運動して痩せんと!俺はジム通って10キロ痩せたからね!」


聞いてないのにベラベラと。
痩せたからってベラベラと。

でもイライラなんてしない。だって、私は精神の向こう側にいるんだからさ。

ベラベラ喋ってる兄の後ろから、お母さんが嬉しそうに迎えてくれた。

「おかえりー!断食どうだった?滝行したんだって?風邪引かなかった?お腹空いたでしょ?カレー作ったから食べるよね?お風呂が先がいいかな?」


いや質問多いわ。
兄のベラベラはあなたの遺伝か。
そして、断食明けのお腹にカレーてあなた。胃へのスパルタえげつないやん。


一瞬食べるか迷ったが、お母さんが愛情たっぷりに作ってくれたカレー。

これは清い。

清い以外の何物でもない。

いただこうではないか。



リビングでお父さんが見ている年末特番の音を聞きながら、
こんな清々しい気持ちで新年を迎えられることを嬉しく思った。


お母さんがビーフカレーをよそってくれた。

「いただきます!」


あー、美味しい!!

ここ数日、修行の一環で食べる前に食事訓(感謝します、的なやつ)を読んでた事もあり、1つ1つの食事に以前よりも有り難みを感じる。

美味しい!

濃い味の食べ物美味しい!


勢いよく食べ終わるとお母さんが、おかわりいる?と聞いてきた。

そうだな、お母さんの愛情を断るわけにはいかない。

いただこうではないか!!!!


2杯目を食べていると、テレビの音が消えた。

目の前にお父さんがいた。

「お前…どしたんじゃ、その体型は」

え?あぁ、そうか…。


私は徐々に体重が増えていくのを毎日見てたけど、

滝行で心軽やかに帰ってきたけど、
お父さんからしたら、
1年ぶりに帰ってきた娘が15キロも太っているのだ。

そりゃ、どしたんじゃ、である。


お父さんは口調を荒げて言った。

「痩せぇ!」

もっともである。

「本気で痩せぇ!今すぐダイエットせぇ!」


カレー(2杯目)をかっこむ娘の前で、
痩せろ痩せろと怒るお父さん。

「そんな肥えて…。みっともないど!」

止まる気配がない。

ごもっともなんだけど、流石に言われすぎてイライラしてくる。

髭を剃れ!とか、髪を染めろ!だったらすぐできるけど、
痩せるのは時間がかかるんだから今言ってもしょうがないじゃん!と。

なんなら、世界で一番、痩せぇ!と思ってるのは私自身だからね!と。


カレー(2杯目)を食べながら思ったわけ。


あーあ。

こんなに言われたらカレーも美味しくなくなるじゃない。

私はカレーを持って、自分の部屋に戻った。(残すのは、あれじゃん?)

――

さっきまでの清々しい気持ちは何処へやら。

部屋でひとり、冷えたカレーを食べていると、
リビングからお母さんとお父さんの怒鳴り声が聞こえる。



「ちょっとあなた…久しぶりに帰ってきたのにあんな言うことないじゃない!」

「年頃の女の子があんな肥えとったらいけん!」

「でも、言い過ぎよ!」

「ガツンと言わんにぁ、あいつは痩せんわい!もう一回言いに行く!!」

「やめてあげて!!!」

喧嘩してるやん。
私が太ってることで、親が喧嘩しちゃってるやんか。

止めに行くべき?

私のために喧嘩はやめて!って?

この言葉って松潤と小栗旬に挟まれて言うセリフだと思ってたんだけど?

まさかこんな形で言う日が来るとは。

止めに行くべきか躊躇していると、


「…ユキ子が可哀相…。…うっ……うっ!」


泣いちゃった。
娘が太り過ぎが原因で、お母さん、泣いちゃったわこれ。

こんな悲しい涙、ある?

さすがのお父さんも、お母さんが泣き出したことで落ち着きを取り戻したっぽい。

よかった。

いや、何にも良くないがな。

こんな世界一悲しい争いはもう繰り返しちゃいけない。

精神の向こう側とかそんなんもうええから、現実をしっかり見てダイエット頑張らなあかんな、と私は誓ったのだった。

コメント

  1. murakami より:

    感動して涙出ました。
    文章でこうなったの初めてでした。

    今後も楽しみにしております!

    • ユキ子 より:

      murakamiさん

      コメントありがとうございます。
      そして、嬉しいお言葉もありがとうございます!
      (ほぼヒデちゃんのおかげやけど。)

      よかったら、また覗きに来てください
      (ヒデちゃんはもう出てこないけど…)

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